ブルーアイランド戦略【第3回】最後に言うよ!「ボロ儲け10箇条」 応用編:利益3割を割り込む商売はダメですな
日経ビジネスオンライン「市場の独り占め方~ガポガポ儲かる『ブルーアイランド戦略』」
さて、ガポガポ儲かる「ブルーアイランド戦略」は、早くも最終回である。
第1回で市場(島)の発見の仕方、第2回で寝ててもカネが入ってくる方法を解説した。
「もう、それで十分じゃないか」と思っている方、あなたは確かに間違っていない。島でうたた寝でもしながら、じゃんじゃんカネが入ってくれば、ほかに何を望むのか。
でも、そうはいかないんだな、現実は。だって暇でしょう。やっぱり、宝の島を発見するような人は、さらに違う島を探しに行ってしまう。
私もそうだった。
うちが主戦場にしていた市場(島)はニッチで小さい。既にうちは市場(島)にある中堅以上の会社(宝)はすべて開拓し尽くしてしまった。だから、今後どれだけ探し回っても今の2倍の規模が関の山だろう。経営者としては、次なる展開を考えてしまう。
戦略は2つ。
(1) 他のニッチ市場を新たに開拓する(新しい島を発見する)
(2) ニッチ市場での経営戦略を汎用化して他企業に展開する(島の発見、開発法を確立して、伝授していく)
(1)は会社としては既に進めていることがあるので手は打っている。
(2)は、マーケティングをしない不動産業界に辟易としている私としては、業界の垣根を超えることは長年の悲願でもある。ニッチトップになる戦略は、どの業界でも、どの業態でも応用することができる。これをレッドオーシャンに浮かぶ島、つまり価格競争から抜きんでた楽園の島として「ブルーアイランド戦略」と名付けたわけだ。
利益率4割の会社ってどこ?
ブルーオーシャン戦略は有名になったが、成功事例は非常に少ないし、結果的に競争のない巨大市場であるブルーオーシャンは、ほとんど存在しないと言っていい。「ブルー」な競争なき市場を創り出すのは、ニッチにしかありえない手法である。大きな市場では、大手企業が巨大な投資をして追随してくる。それだけの価値があるし、大手にとっては「追随しないリスク」が大きい。
ところが、ニッチ市場では先行者利益が大きく、大手が参入しても消費者はそちらに乗り換えるスイッチングコストが高い。だから、いくら大手とはいえ、後発企業になってしまうと投資採算が悪い。だから、「まあ、いいや」と諦める。
こうして小さい市場でもトップになれば、価格の自由度は高まる。先行者利益を獲得するためのスキミング(上澄み)価格戦略を取ることができるし、適正価格を守れば、営業利益率3割が余裕で射程圏内に入る。通常の会社は営業利益率1割がせいぜいだ。2割あるとすれば、「かなりの優良企業」と見られる。3割あったら「超優良」である。だが、そのためにはニッチでライバルを寄せ付けない「圧勝」状態のケースに限られる。
ちなみに、4割以上はヤフージャパン、グーグル、GREE、DeNAなどのIT(情報技術)市場で圧倒的優位な立場にある企業が多い。だが、上場企業では両手で数えられるくらいだろう。たとえ利益率がそこまで高くなくても、従業員などの給料が頭抜けて高いとそれだけの価値があることになるので、営業利益率3割はニッチトップ戦略の1つの目安だ。
では、これを実現するにはどうすればいいのか?
まず、ニッチ市場を特定することに始まる。ニッチ市場は、エリアを狭め、分野を狭め、得意技で圧倒する、ということを組み合わながら創っていく。
要するに、こういうタイプの小さい島なら、必ず占拠できて、誰が来ても打ち負かせる。そういう「連戦連勝」に持ち込むわけです。
例えば、日本の人口を統計手法で予測しているのは私の知る限り日本に4人(4団体)しかいない。同じことを本当に一生懸命に考えているのは世界に5人ほどしかいないと考え、そこで1番になるのは難しい話ではなかろう。私は不動産市場分析のノウハウを活用して、人口予測の独自モデルを作り、合計特殊出生率を当てて、朝日新聞と読売新聞に大きく掲載された。その際の見出しは「変わるか“大甘予測” 民間は的中も」「年金・医療費…将来見通しの基礎データ なぜ外れ続けたのか 民間の方法は進学率を加味」となっている。
つまり、「人口予測」という得意技を磨きながら、それを応用して、違う市場で勝ちまくればいい。ニッチ市場を特定し、そこで圧倒的な一番を目指すのがニッチ戦略の基本となる。
独創的なアイデアをカネに変える
次に、ニッチ市場を次々と見つけ、差別化をするには個人のアイデア(創意)が必要になる。
3Mには「15%ルール」がある。従業員が労働時間の15%を自由な研究開発に充てることができる制度である。こうした手法を取るのは、3Mでは売上の3割以上が過去4年に開発された新商品で占めているという事実から、個人の開発意欲を最大化させるための制度と位置付けられている。
実際、ポストイットのような中途半端な粘着力の商品を検討し、秘書などの事務仕事が多い人が貼れる付箋として商品を発売したことで、市場が一気に創り上げられた事例である。
同様の制度は、グーグルの場合、20%ルールとして運用されている。3Mやグーグルは社員が優秀なので一定時間を自由にさせればいいかもしれないが、ニッチ戦略を取る中小企業では限られたリソースを効率的に運用した方がいい。
ブルーアイランド戦略の肝は、社員から出てきたアイデアをいかにマネジメントするかにつきる。社員それぞれの立場によって課題を設定し、それを解決するアイデアを出してもらう。それをかき集めて、実行するアイデアを決め、経営資源を注ぎ込むように命ずることが最も効率的だろう。例えば、営業は顧客から聞いた話から事業アイデアを考え、実践のための一手を考える。データ分析しているSEはリソースを有効活用できる商品を企画する、といった具合いだ。
マネジャーはそのアイデアをトライするか否かを意思決定し、合わせてビジネス展開を検討する。短期間に試作品が出来て、自分たちの競争優位な状況を創ったら、それをクライアントに持ち込み、意見を聞いていく。クライアントのニーズを引き出し、改良を繰り返して、「どうしても使いたい」という商品に仕上げていく。クライアントが多数になりそうな場合には、パッケージ化してレバレッジ効果を生むように、投資を検討する。このようにしてビジネスを雪だるま式に大きくしていき、リードタイムも短くする。
企業は生き残るために、環境に適応しなければならないが、他社と同じやり方では低価格競争に巻き込まれるだけだ。組織としての独自性を進化させることと、個人のアイデアの自己実現を満たすことを両立するという高い目標を立てるところに、社会・企業・個人が「三方すべて良し」となり、企業存在の意義が出てくる。組織の独自性はトップが明確にメッセージする必要がある。うちの場合は、「不動産にITソリューションを」である。
メッセージはUSP(自社の強み)として、ドミノピザの「30分以内に届かなければ無料」にしてもいい。また、サントリーの「やってみなはれ」のように、「結果を怖れてやらないこと」を悪とし、「なさざること」を罪と問う社風とするのも一つの考えだ。「焼酎に賭ける」とドメインを明確にしてもいい。独自性を明確にしたら、経営としては資源の配分の問題になる。そこでは社員一人一人のアイデアに、人・時間・資金などを配分することになる。
借り物のアイデアはボツにせよ
例えば、「みずほ」という産直市場が茨城県つくば市にある。小さな直売所であるが、儲かる農家が続出している。この市場には価格設定の掟がある。まず、生産者が自分で販売価格を設定する。その価格は1年間変わらない。そして、同じ農作物を販売する次の参入者はその価格以上を設定しなければならないというものだ。
Aさんがフルーツトマトを180円で販売していたら、次に参入したBさんはフルーツトマトは180円以上なので、例えば200円に設定するといった具合だ。価格の自由度がある場合には、BさんはAさんと同じ品質のものを160円で売り出すかもしれない。そうなると、Aさんは150円に値下げするかもしれない。それを許すと、価格競争が巻き起こる。
しかし、「今より高い価格しかダメ」という掟があるがゆえに、農家の考え方は価格以外のところに向かう。それが品質である。ライバルより高い価格にしなければいけないがゆえに、農家は品質競争をし始める。フルーツトマトで言うなら、より糖度が高く、料理に使い勝手のいい形を志向するかもしれない。ひいては、土壌や品種の改良になったり、手塩にかけての細かな工夫をするようになる。それが収入に跳ね返る仕組みだからである。
おいしい農作物は一度食べたら、リピーターとなり、遠いところから車でたくさんの人がやって来る。農家は専業でやっていけるだけの収入を得て、顧客も満足する関係を築ける。価格に支配された横並び意識に対して、品質という別の評価軸に重きが置かれることで、品質が価格を制する「縦並び」の構図ができる。価格軸がすべてを圧倒して力を持っていると、それを呪縛に感じてしまうのは当然だ。それが横並び意識になる。横並びは同じことをやろうとして最後に価格調整しようとするが、縦並びは別の軸の中で違うことをやろうとする。
企業が努力の方向性を示したら、社員にも「自分らしさ」を求めよう。新聞や雑誌などの情報収集は他社でもできる。しかし、そのソリューションの仕方は人それぞれである。それは問題意識や情報ソースや着眼点や解決法が各自のこだわりや美意識や興味・関心が異なるからである。
その意味で、ダイバーシティマネジメント(多様性を競争優位の源泉として変革しようとするアプローチ)は有効であり、好奇心と向上心と想像力を最大限に発揮することを求める。うちの会社では、人事評価制度で目標管理制度を採り入れ、各自の課題設定を半年単位にしている。その課題を解決するアイデアを毎週出すことになっている。
企業にはこうしたアイデアを有効に活用するマネジメントが求められる。
どこかから借りてきたようなロジカルシンキングの結果は、他社でも思いつくし、アイデンティティがないと切り捨てよう。逆に、アイデアの可能性を直感的に惚れ込んだ方がうまく行く。
アイデアは生半可な論理で否定してはもったいない。まず試してみないと結果が想像つかないケースが多い。アイデアは、最初は理論的に説明できなくてもいい。試した結果がすべてであり、現実である。有能な者ほど、まず行動するものだ。ビジネスは成功してから、論理を後付けすればいい。現実の応用問題に出来合いの模範解答なんてあるわけがないのだから。
ボロ儲け10箇条
例えば、鹿児島県鹿屋市にパナソニックの系列販売店チェーン、セブンプラザがある。周辺にはヤマダ電機やベスト電器など大手の家電量販店が多いが、セブンプラザの粗利益率が突出している。
なぜか。要するに販売単価が高いのだ。それでも顧客は、この店から買っている。
この会社では電化製品に付随するサービス(例えば電球の取り換えや、リモコン電池の交換、電化製品のセットアップなど)を無料で積極的にやっている。こうした無料奉仕が顧客支持に繋がるまでは経営方針として正しいかどうか半信半疑だったと想像するが、成功してみると後付けで理論構築はできる。こんな具合いだ。
「お客さんの潜在ニーズに耳を傾け、カネにならないニーズに応えることを行った結果、顧客との接触頻度が多くなり、それがザイオンス効果(見る機会を増やすと好意を持つ可能性が高くなる)を生み、アフターサービスの安心感と販売店への信用が高まり、他社へのスイッチングコストを高め、価格が高くても売れるようになった」
結果論から成功している経営を科学すると、経営学で一般的に言われているところと逆になるのではないだろうか?
そこで、「ボロ儲け10箇条」を披露しよう。
(1) 会議をしない会社ほどうまく行く
→ 孤独にやるからこそ美意識と責任感が出る
(2) 上司の言うことを聞くほど失敗する
→ 不確実な時代に、成功談は一時的でしかない
(3) ロジカルシンキングからはビジネスは生まれないし、育たない
→ 誰もができることは戦略として採用できない
(4) 失敗を怖れることが最大の失敗となる
→ 経験とは失敗である
(5) 最も失敗数の多いトップが最も成功する
→ 最も成功数の多い人は最も失敗している
(6) 賢そうな人より、偏執狂が役に立つ
→ 他人の成功体験をなぞるより、自分のビジネス経験を増やし、センスを磨く
(7) 知識よりも想像力が役に立つ
→ 知識は過去のもので、想像力は未来の設計図となる
(8) 論理よりも直感を大切にする
→ 直感を試し、論理を後付する方法もある
(9) 機能より美意識の高さが重要である
→ 顧客の感動が評価基準となる
(10) 巧緻より拙速がいい
→ すべての情報が揃ってから意思決定しているようでは競争に勝てない
日本をブルーアイランドにする
戦略とは、他人と違うオリジナルのアイデアを大胆に実行することに他ならない。現時点でロジカルに説明できることは過去の方便に過ぎない。だが、現実のビジネスの成否は別次元のところで決まっていく。
この端緒がアイデアである。アイデアはたとえ「単なる思いつき」でも、アイデンティティの発露であり、アイデアル(理想)でもあると考えよう。ビジネスが個人のアイデアに託されているがゆえに、組織的にアイデアを活用するマネジメントが重要になる。こうしたアイデアマネジメントは全社で取り組む改善とイノベーションである。
それは既存のビジネスにおいても、そのまま応用することができる。各自の課題設定とアイデア出しを義務化すると、問題意識が強く芽生える。役員と中間管理職と平社員では求められる課題のレベルが異なるように、アイデアはイノベーションから改善まで様々なものが飛び出してくる。
「ブルーアイランド」を築きたいのなら、経営者がこれまでの価値観を変えて、アイデアに賭ける意志を明確に示すしかない。全社でツールやノウハウを共有し、アイデアを出し、実行・検証する仕組みを構築しよう。そして、業績評価制度を連動させ、個人と企業の成長を楽しむ組織を創ろう。新入社員から役員まで全員が各自の目の前の課題に対するアイデアに取り組むことほどリスクの少ない経営はないだろう。
今後の日本に起こることは、人口の年齢構成から暗い話が多いことは想像に難くない。その中にあって、低成長やデフレ傾向に抗うには、アイデアの具現化回数が絶対的に必要となる。なぜなら、自分(たち)のこだわりから生まれる1つ1つのアイデアが、私たちの理想の未来を創ることになるのだから。
わたしの理想は、
「ブルーアイランド戦略を広めて、日本をアイデア大国にすること」 である。
それは日本を「ブルーアイランド」にすることに他ならない。